フィンランドVTTの菌糸体レザー量産化が変える靴・バッグ産業の持続可能な未来

フィンランドVTTの菌糸体レザー量産化が変える靴・バッグ産業の持続可能な未来

ニュースの概要

フィンランドの研究機関VTTが、菌糸体から作るレザー風素材を、研究室向けの小さな試料ではなく、連続したシートとして生産する方法を示しました。液体発酵で菌糸体を増やし、紙を作る工程に似た方法で成形することで、幅20センチ、長さ8メートル規模の試作に成功しています。従来の革に近い強度を目指せるうえ、プラスチックを使わず、バッグの試作にもつながりました。水中で28日後に大きく分解する性質も確認され、素材開発の焦点は「作れるか」から、安定した品質で安く供給できるかへ移りつつあります。

引用元: フィンランドVTTが菌糸体レザーの量産プロセスを開発(Framtiden / VTT)

分析・見解

連続シート化で試作品から工場向け素材へ進んだ

菌糸体レザーの開発では、これまで小さな板状試料を作り、見た目や手触りを確かめる段階が目立ちました。VTTの成果が重要なのは、菌糸体を液体の中で増やした後、紙の製造に近い流れで広げ、乾燥や仕上げまで連続的に進める道筋を示した点です。幅20センチ、長さ8メートルという試作規模は、まだ革の大判ロールと同じではありません。しかし、工程を止めずに素材を送り出す考え方が成立したことは、量産設備の設計に必要な出発点になります。

菌糸体は生き物由来なので、成長速度や密度が毎回同じになるとは限りません。そこで重要になるのが、原料の状態、温度、酸素量、含水率を測りながら調整する仕組みです。単に大きく作るだけでなく、厚さや繊維の向きをそろえられるかが、靴やバッグの採用を左右します。

プラスチックを減らす強みは廃棄時まで続くか

植物由来の合成皮革には、表面をポリウレタンなどで覆うものが少なくありません。見た目と耐水性は高められますが、素材全体が自然に戻るとは限らず、複合素材として分別しにくくなります。VTTの方式がプラスチックを使わない設計を保てるなら、製造時だけでなく、使い終えた後の処理でも差別化できます。

ただし、「水中で28日で大きく分解する」という性質は、すぐに自然環境で完全消失することを意味しません。温度、微生物、厚さ、染料、接着剤によって結果は変わります。製品化には、土壌、淡水、海水、埋立環境など条件別の試験が必要です。耐久性を高める加工が分解性を下げる可能性もあり、長持ちと戻りやすさの均衡が設計上の核心になります。

強度の達成だけでなく水や摩擦への耐性が分岐点になる

革製品で求められる性能は、引っ張り強度だけではありません。靴なら曲げを何万回も受け、バッグなら金具周辺に荷重が集中します。雨や汗、油、日光にさらされ、表面の傷や色落ちも評価されます。菌糸体素材が一般革に匹敵する強度を持つとしても、用途ごとの耐久試験を通過しなければ、高価格帯の商品で継続採用されるのは難しいでしょう。

一方で、すべてを本革と同じ性能にする必要はありません。裏地、ポケット、靴の中敷き、装飾部品など、負荷が比較的低い部位から採用すれば、性能不足のリスクを抑えられます。素材の弱点を隠すのではなく、部位別に使い分ける発想が、初期市場を広げる現実的な方法です。

既存の紙製造設備が普及速度と採算を左右する

新素材の工場を一から建てると、設備費と立ち上げ期間が大きな壁になります。紙の製造に近い連続工程を既存設備へ応用できれば、乾燥、搬送、幅の調整といった工程で蓄積された技術を活用できます。ただし、発酵槽、衛生管理、菌糸体の濃縮、排水処理など、紙工場にはない設備も必要です。既存設備をそのまま使えるというより、共通部分を増やして投資を抑えられる可能性がある、と見るべきです。

本当の競争相手は、ほかの代替レザーだけではありません。安価で品質が安定した合成皮革や、供給網が確立した本革も含まれます。菌糸体を育てる原料の価格、乾燥に使う熱、歩留まり、検査費を含めた一平方メートル当たりの原価が明確になって初めて、環境価値が購買理由として機能します。

ビジネスへの影響

企業は高級品の全面置換より部材単位で導入を始める

アパレルや靴、バッグの企業が最初に行うべきことは、本革を一度に置き換えることではありません。まずは内装、持ち手の一部、タグ、化粧箱の表面など、品質要求と交換頻度を管理しやすい部位を選びます。そこで裁断ロス、縫製時の割れ、接着剤との相性、色の再現性を確認すれば、量産前に失敗の範囲を限定できます。

購買部門は、サンプルの見た目だけで判断しないことが重要です。厚さの許容差、ロール幅、最小発注量、納期、ロット間の色差、返品時の扱いを契約前に確認します。素材の環境性能を表示する場合は、プラスチック不使用の範囲や分解試験の条件も明記し、誤解を招く宣伝を避ける必要があります。

素材メーカーとブランドが共同で量産条件を作り込む

菌糸体レザーは、素材メーカーが規格品を売り、ブランドが後から使うだけでは普及しにくい素材です。ブランド側の裁断パターンや縫製機械に合わせて、厚さ、柔らかさ、表面処理を調整する必要があります。初期段階では、素材メーカー、加工会社、製品ブランドが小規模な共同試験を組み、試作から数千点規模の販売まで同じ評価表で追跡する体制が有効です。

投資判断では、環境負荷だけでなく供給の代替性も見ます。発酵の停止や原料不足で生産が止まった場合に、別拠点や別素材で補えるかを確認します。VTTの技術が既存の連続加工設備と接続しやすいなら、地域の紙、繊維、食品発酵企業との提携が候補になります。量産化の価値は、素材そのものの新しさより、既存産業の空き設備と販売網を組み合わせられる点にあります。

分解性を製品設計と回収制度に組み込む

分解しやすい素材でも、金属金具、染料、接着剤、混紡裏地が残れば、製品全体は簡単に自然へ戻りません。そのため設計段階で、異素材を外しやすい縫製や接着方法を選び、回収後に部品を分けられる構造にする必要があります。購入者に返却を促す保証金制度や修理サービスを組み合わせれば、環境価値を販売後の仕組みにまで広げられます。

今後の採用を決める指標は、試作品の話題性ではなく、一定品質の連続生産、用途別の耐久試験、原価、回収後の処理を同時に説明できるかです。この四つを公開できる企業ほど、環境配慮を一時的な宣伝ではなく、商品開発と収益の仕組みに変えやすくなります。

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