マイセリウム素材(キノコレザー)の環境負荷に最大20倍の差、製造電力が左右する新常識
ニュースの概要
英ナレッジプラットフォームThe Knitting Industryが伝えたオックスフォード系研究機関の報告によると、ファッション産業は世界の農地利用の3分の1近くに関わっているとされる。同報告は化学繊維や動物由来素材の代替として注目されるキノコ由来のレザー代替素材(マイセリウム素材)についても検証し、製造時に使う電力の種類や加工方法によって温室効果ガス排出量が最大20倍近く異なると指摘した。天然由来という響きだけで環境負荷の低さを判断するのは早計だという論点が、業界内で改めて共有された形だ。
引用元: ファッション業界の環境負荷を巡る新分析で、キノコ由来代替素材の評価差が大きいことが示される(The Knitting Industry)
分析・見解
「天然由来だから低環境負荷」という前提そのものが崩れた
これまでキノコ由来のレザー代替素材(マイセリウム素材、菌糸体を圧縮してシート状に加工したもの)は、動物由来の革や石油由来の合成皮革に比べて一律に環境負荷が低いと語られてきた。しかし今回の報告の数字を見ると、同じ原料、同じ製法カテゴリーの製品であっても、製造時にどんな電力を使うかで温室効果ガス排出量が20倍近く変わる。素材そのものの善し悪しではなく、工場の電源構成が結果を大きく左右しているわけで、太陽光発電の普及地域で作った製品と、石炭火力への依存度が高い地域で作った製品を、同じ「サステナブル素材」というラベルの下で比較すること自体に無理がある。
なぜ製造条件だけでここまで差が生まれるのか
マイセリウム素材の製造は、菌糸体を育てる培養工程と、それを乾燥・圧縮・コーティングして革のような質感に仕上げる加工工程に分かれる。培養自体のエネルギー消費は比較的小さいが、乾燥や熱処理、樹脂コーティングの工程は電力消費量が大きく、ここで使う電力が化石燃料由来か再生可能エネルギー由来かによって、最終製品の炭素排出量(カーボンフットプリント)が大きく上下する。つまり素材の「原料段階」ではなく「加工段階」がボトルネックになっているわけで、これはリサイクル素材やバイオプラスチック全般にも共通する構造的な課題だ。
動物性レザーとの比較優位という前提が揺らぐ
これまでの業界の売り文句は「動物由来の革より環境負荷が低い」という比較優位だったが、今回の報告はその比較軸自体を相対化した。低排出の製法で作られたマイセリウム素材なら優位性は明確だが、高排出の製法で作られたものは、部位によっては従来の畜産由来レザーと大差ない、あるいは条件次第で逆転する可能性すら示唆される。素材カテゴリー単位での「環境に優しい」という主張が、個別の製造ロットレベルでの検証を求められる時代に移りつつある。
開示の標準化が次の業界内競争軸になる
今後は、素材メーカーがどの工程でどれだけの電力を使い、その電力源が何かを開示できるかどうかが、ブランド側の調達判断を左右するようになるだろう。ライフサイクルアセスメント(LCA、原料調達から廃棄までの環境負荷を数値化する手法)の結果を工場単位・ロット単位で公開するメーカーと、素材カテゴリー全体の平均値しか示さないメーカーとでは、今後数年で信頼性の差が広がっていくと見ている。
ビジネスへの影響
調達判断の基準を「原料」から「工場の電源構成」へ移す
サステナブル素材を採用する際、これまでは「動物由来ではない」「石油由来ではない」という原料レベルの説明で調達を正当化できた。しかし今回の報告を踏まえると、サプライヤーに対して製造工程の電力源(再生可能エネルギー比率)や加工方法まで確認しないと、実際の環境負荷を見誤るリスクがある。特に環境訴求を目的にマイセリウム素材を採用する場合、排出係数の裏付けを取らずに広報発表すると、後から数値の根拠を問われたときに説明できなくなる恐れがある。
サプライヤー契約に排出量データの開示条項を入れる
実務的な対策として有効なのは、素材サプライヤーとの契約や発注仕様書に、工程別のエネルギー使用量や電力源の情報開示を条件として盛り込むことだ。ロットごとのLCAデータを提示できるサプライヤーを優先することで、ブランド側は自社のサステナビリティ報告書に具体的な数値根拠を持たせられる。開示コストを負担できる大手メーカーと、対応が難しい小規模生産者との間で、今後は取引条件の差別化が進むと考えられる。
「グリーンウォッシュ」批判への備えを広報段階から組み込む
環境訴求の根拠を求める規制強化が進むなか、「キノコ由来だから環境に優しい」という単純な訴求文言は、根拠不十分と見なされるリスクが高まっている。マーケティング部門と調達部門が連携し、素材ごとの排出量レンジ(最低値と最高値の両方)を把握したうえで、実際に採用したロットの数値を根拠として示せる体制を、次のシーズンの製品発表までに整えておく価値がある。