マンゴーの皮が革になる日 ベトナム発の素材革命を読む
ニュースの概要
ベトナムの若手スタートアップが、マンゴーの皮を原料にしたバイオレザーを開発し、若手スタートアップ賞を受けた。マンゴーは果肉を食べる際に多くの皮が出るが、ジュースや乾燥果実の加工工場では、これが大量の廃棄物になる。同社はこの皮に含まれる繊維質や糖分を利用し、革のような手触りと強度を持つシート状の素材に仕上げたという。動物由来の革や石油系の合成皮革に代わる、環境負荷の低い選択肢として、ファッション分野での活用を目指している。果物の産地として知られる国で、地元の農業廃棄物を新しい産業の原料に変える試みであり、素材開発の流れを考えるうえでも示唆に富む事例である。
引用元: 若手スタートアップ賞:マンゴーの皮を利用して、環境に優しいファッションのためのバイオレザー素材を開発する。(Vietnam.vn)
分析・見解
捨てられる皮が、むしろ原料として優れている理由
バイオレザーの原料といえば、キノコの菌糸やパイナップルの葉が有名である。そこへマンゴーの皮が加わった意味は小さくない。皮は加工工場に集中して出るため、集荷の手間がほとんどかからない。畑に散らばる葉や茎と違い、すでに一か所に山積みになっているのだ。
しかも果汁や乾燥マンゴーの工場は、皮の処分費を負担している。原料が「無料、あるいは引き取るだけで感謝される」状態になりやすい。これは原料調達の面で、他の素材にない強みである。
技術の核心は、柔らかさと耐久性の両立にある
果物の皮を革の代わりにする試みは、これまでも各国で行われてきた。リンゴの搾りかすを使うイタリアの事例や、サボテンを使うメキシコの事例が代表格である。ただし、多くは「見た目は革に近いが、折り曲げ続けるとひび割れる」という壁にぶつかった。
皮の繊維を細かくほぐし、バインダー(=繊維同士をくっつける樹脂)と混ぜて薄く伸ばし、乾燥させる。この工程のうち、バインダーを石油由来にすると「バイオ」の看板が揺らぐ。植物由来の樹脂にすると、今度は耐水性が落ちる。この綱引きをどう解くかが、実用化の分かれ目になる。
熱帯の国が持つ、地理的な追い風
ベトナムは世界有数の果物生産国で、マンゴーだけでも年間に数十万トン規模を収穫する。さらに縫製業が盛んで、靴やバッグの委託生産拠点として世界の大手ブランドと取引している。つまり原料の産地と、完成品を作る工場が同じ国内にある。
素材を海外から運ぶ必要がなければ、輸送による排出も、納期も圧縮できる。この「近さ」は、環境性能と同じくらい価格競争力に効いてくる。キノコ革の企業が欧米の高級ブランド向けに少量生産で苦戦してきたのとは、事業の設計思想が根本から違う。
独自の視点:バイオレザーは革の代用品ではなく、地域資源の記録媒体になる
ここで一つ、あまり語られない視点を挙げたい。バイオレザーは、動物革の「安い代わり」として売ると、価格と品質の比較で必ず苦戦する。むしろ「この産地の、この季節のマンゴーの皮から生まれた」という出自そのものを価値にするほうが筋が良い。
ワインのヴィンテージのように、収穫年や産地によって色味や風合いが微妙に変わる。それを欠点でなく個性として見せられるブランドが、このジャンルで勝つ可能性が高い。均一性を競う合成皮革とは、勝負する土俵がそもそも違うのである。
ビジネスへの影響
調達担当が今から確認すべき三つの数字
アパレルや雑貨メーカーの調達担当者にとって、まず見るべきは、強度試験の結果、耐水性、そして一ロットあたりの供給量である。サステナブル素材は、サンプルは美しくても量産で品質がぶれることが多い。
具体的には、屈曲試験(=何万回折り曲げても割れないかの試験)の回数、洗浄後の色落ち、カビへの耐性を、数値で出してもらうべきだ。数値を開示しない企業とは、試作の段階で距離を置くのが安全である。
小ロットの限定商品から試すのが現実的な入口
日本の中小ブランドが取り入れるなら、いきなり主力商品に使うのは危うい。財布、カードケース、名刺入れなど、使う面積が小さく、折り曲げの負荷が読みやすい小物から始めるのがよい。
ストーリーを伝えやすいため、クラウドファンディングや百貨店の催事との相性も良い。価格は動物革より二割から三割高くても、素材の背景を説明できれば納得される例が多い。一方で、廃棄物由来であることを前面に出しすぎると、「安っぽい」と受け取られる恐れもある。見せ方の設計が肝心である。
表示と認証の準備を怠ると、後で販売停止のリスクになる
「環境に優しい」「バイオ」といった言葉は、根拠が曖昧だと不当表示を疑われる。欧州ではグリーンウォッシュ(=実態以上に環境配慮を装うこと)への規制が強まっており、日本でも景品表示法の観点から注意が必要だ。
原料の配合比率、石油由来成分の割合、製造時のエネルギー使用量を、第三者機関の認証や測定で裏づけておく。これを先に整えた企業が、結果的に取引先の信頼を早く得ることになる。