Keringが示す高級ファッションの素材転換、菌糸体レザーは選択肢になるか

Keringが示す高級ファッションの素材転換、菌糸体レザーは選択肢になるか

ニュースの概要

Keringはミラノ・ファッションウィークに合わせ、若手デザイナーがバイオ由来繊維や再生素材を試せる機会を設けた。候補には、菌糸体を使うSqimのEphea®、ナノセルロース、植物由来やタンパク質系の素材などが含まれる。同社はレザー使用比率を2025年比で2028年までに30%下げる方針も示しており、代替素材の探索を実際の商品設計につなげようとしている。素材の提示にとどまらず、次世代の作り手を巻き込んで用途や表現を探る点が特徴だ。

引用元: Kering、ミラノでバイオ素材や再生素材を前面に 菌糸体も活用(Fashion Times)

分析・見解

ミラノでの素材提供は、試作を市場検証へ進める

若手デザイナーに新素材を渡す取り組みの意味は、素材を紹介するだけでなく、実際の形や使い方を試す機会をつくることにある。素材企業だけでは想定しにくい縫製、厚み、色、表面の見せ方が、バッグや衣服の試作を通じて明らかになる。ブランドにとっては、研究室のサンプルを売り場に近い条件で評価できる。

ファッションウィークは発表の場であると同時に、デザイナー、素材開発企業、ブランドの接点でもある。ここで得られた反応が採用を約束するわけではないが、どの用途なら魅力が伝わり、どの加工が必要かを早い段階で確かめられる。素材転換を研究開発部門だけの課題にせず、商品企画に接続する仕組みとして注目できる。

菌糸体素材の価値は革らしさと加工適性で決まる

菌糸体素材は、きのこの根にあたる菌糸を育ててシート状にする素材群だ。SqimのEphea®が今回の候補に含まれるが、菌糸体という名称だけで天然皮革と同じ性能が得られるわけではない。表面の均一さ、折り曲げへの強さ、縫い目の耐久性、色や手触りの安定性は、製法や仕上げによって変わる。

高級品では、見た目だけでなく、長く使った後の変化や修理のしやすさも価値を左右する。代替レザーを評価する際は、試作品の外観に加え、バッグの持ち手、角、留め具周辺など負荷が集中する部分を検証したい。革らしさを再現することが常に正解とも限らない。素材固有の表情を商品の魅力として設計できれば、単なる置き換えを超えられる。

素材の選択肢が増えても環境負荷は一括で比べられない

菌糸体、植物由来繊維、ナノセルロース、タンパク質系素材は、原料も製造工程も異なる。再生素材も含め、名称だけを並べて環境性能の優劣を判断することはできない。原料の栽培や調達、製造時のエネルギー、使用する樹脂や塗料、耐用年数、廃棄・再利用までを同じ条件で確認する必要がある。

特に「植物由来」という表示は、製品全体が植物だけでできていることを意味しない場合がある。基材の一部に生物由来成分を使っていても、耐久性を補う加工や表面層が別素材なら、回収や分解のしやすさは変わる。環境訴求を強めるほど、原料の割合と評価範囲を具体的に示すことが、誤解や表示上のリスクを減らす。

2028年の削減目標は調達網と商品設計を同時に動かす

Keringが掲げるのは、レザー使用比率を2025年比で2028年までに30%削減する方針だ。これは代替素材の採用だけで達成できる目標ではない。製品構成の見直し、革の使用量を抑える設計、再生材の活用、供給先の開拓を組み合わせる必要がある。どの製品群をどう変えるかが明確でなければ、数値目標と商品実態の間に隔たりが生じる。

一方、目標が調達部門の需要予測を変えれば、素材企業は設備投資や品質管理に踏み切りやすくなる。大手ブランドの役割は、完成した代替材を買うことだけではない。必要な性能と数量を早めに伝え、試作から量産までの条件を共有することにある。素材の普及を決めるのは話題性より、安定供給と継続購入を伴う設計変更だ。

ビジネスへの影響

目標を製品群と調達条件に分けて実行する

ブランドの担当者は、レザー削減を全商品に一律で求めるのではなく、用途ごとの切り替え難度を整理したい。装飾部材、裏地、小型アクセサリーなど、要求性能や面積が比較的小さい部分は試験導入の候補になる。一方、バッグの持ち手や長期使用を前提とする製品では、摩耗、引張、湿気、修理対応を含む確認が欠かせない。

調達計画では、試作品の評価基準と量産時の条件を分けて定める。色差や厚みの許容幅、最低発注量、納期、製造拠点、品質不良時の対応を初期協議に含めると、採用直前の手戻りを減らせる。2028年の目標を実務に落とすには、素材の候補リストだけでなく、製品群別の採用時期と使用量を追う管理表が有効だ。

素材企業とは少量試作から供給体制まで共同で確かめる

新素材企業との協業では、サンプルを受け取って評価するだけで終わらせず、デザイナー、品質管理、調達、環境評価の担当者が同じ試作に参加する形が望ましい。デザイン側は外観と加工性を見て、品質側は耐久試験を行い、調達側は供給量と価格の見通しを確認する。これにより、魅力的だが量産できない素材を早期に見分けられる。

評価時には、素材名や生物由来の割合だけでなく、表面加工を含む製品全体の構成と環境評価の範囲を確認する。長く使える設計や修理の可否も、素材選定と同時に検討すべきだ。試作段階で不採用となった理由を記録し、次の開発条件として共有すれば、供給企業の改善にもつながる。短期の話題づくりではなく、継続発注につながる性能要件を示すことが、ブランドと素材企業の双方にとって現実的な投資となる。

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